後縦靭帯骨化症

人体の中心である脊髄には多くの中枢神経が通っていて、脳からの指令を伝達する重要な役割を果しています。その脊髄が何らかの理由で損傷したり変性すると、痛みやしびれ、めまいなどの症状が起こり、さらに進行して歩行困難に陥ったりします。
今回の患者さんも同様の症状(痛み、脱力感、しびれ)を訴えて同院を受診されました。当時75才のその方は、以前に転倒されたらしく、その時をきっかけに右肩に痛みが発し、他にも様々な症状が出始めたそうです。当院では、CT、MRIの精密検査を行った結果、「後縦靭帯骨化症」が判明したため、まずリハビリテーションを1ヶ月余り続けました。しかし症状がいまいち好転せず、その内に右上下肢の脱力感から歩行障害もみられるようになったため、手術にふみきりました。
脊髄は脊柱に覆われ、その一構成部分である椎体を繋ぐ役割をする靭帯が椎間板を挟んで前と後にありますが、本来は薄く柔らかい靭帯がいつの間にか固い骨のようになり、それが徐々に増殖して神経を圧迫します。居場所を圧縮された神経が言わば悲鳴をあげて痛みやしびれという症状で現れるのがこの病気です(図を参照)。原因は未だ解明されていない難病の一つです。
shourei-04

 

椎弓形成術

ではどうすればいいのか…。この患者さんの場合、頚椎の4・5・6番目の後縦靭帯が骨化しており、圧迫された箇所の神経を解放するスペースが必要となります。今回は後方の棘突起を観音開きにし圧迫箇所(脊柱管)を広げる「椎弓形成術」という手術方法を採りました。できるだけ少ないリスクで、体の根幹である大切な神経を保護するのが最優先目的です。そして後部の開いた骨と骨の間を人工骨で(つっかえ棒のように)ブロックし、圧迫されて狭くなった脊柱管を広げるというものです。結果的に脊髄は骨化部をよけて少し迂回するような形になります。手術後は健常時のようにはいかないけれど、痛み・しびれは軽快し歩行もでき、日常生活には全く困らない状態となりました。
もちろん術後のリハビリテーションも、重要です。傷ついた神経を完全にもとに戻す事は不可能ですが、脊髄の不可逆的な部分をその他の機能で、カバーできるようになる事が大切です。

 

脊椎・脊髄は専門医に

整形外科はスポーツ障害やリウマチなど医療範囲も広いのですが、中でもリスクの高い脊椎・脊髄の中枢神経を触れる医師は少ないのが現状でしょう。今回の後縦靭帯骨化症のように大変珍しい病気で原因が解明されていない難病となれば、誰しも不安になります。しかし、初期の段階からリハビリテーションを続ければ進行を遅らせ、極端な悪化は避けられる事もあります。しびれや歩行障害が起こると日常生活が極めて不便で厄介です。加齢とともに足や腰、膝が痛くなるのはある程度仕方ないとはいえ、どうも納得できない異常さを感じたら、なるべく専門医に診てもらう事が大切です。「これくらいは大丈夫」と自己判断は禁物です。早期発見・早期治療は大原則ですから。
※なお、特定疾患(難病)は難病認定申請した時点から、その治療に関してのみ治療費の患者負担が無料になります。