前十字靭帯損傷

二足歩行の人間にとって、膝は重要な関節の一つです。歩く、座る、立つなどの動作などたえず膝には大きな負担がかかります。加齢や事故などで関節が損傷すると歩行困難となり、日々の生活は極めて不便、おまけに痛みを伴うと我慢も限界となります。今回はその膝関節のお話です。

 

前十字靭帯損傷

「膝が痛い、曲がらない」と訴えて同院を訪れたのは50歳代後半の女性。聞くと半年前に自転車で転倒して膝を強打、当時はとても痛く腫れもひどかった様ですが、なぜかそのまま我慢し、おまけに事故翌月から四国巡礼をされたとか…膝にはずいぶん過酷な負担が掛ったと思われます。
来院時の膝屈折度は伸展(真直ぐ伸ばした状態)はマイナス15度(正常値0度)、屈曲(膝の曲がり方)は95度(正常値165度)で、曲がらない、伸ばせないという状態。そこで、まずMRIで検査すると、本来あるはずの膝内の前十字靭帯がない…?
これには流石にわたしもびっくり。
靭帯が損傷していることは明白なのにその理学所見が定かでないという珍しい症例だったのです。
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切れた靭帯の癒着で拘縮

通常、膝の靭帯が切れるとぐらぐらして下肢が引き出されますが、なぜかその症状もない。そこで関節鏡で診断(胃カメラの様に関節の中をカメラ撮影)すると、切れた靭帯は繊維状のものなので、バラバラに飛散して縮んだ状態であちこちにくっつき、いわゆる拘縮していることが判明。転倒事故から半年も経過しているわけで実に不思議な症状を呈していたのです。
靭帯の痕跡は少しあるものの再生する事はとうてい不可能で、新しく人工靭帯を埋め込む手術となりました。

 

手術法は人工靭帯プラス移植

手術は様々な方法がありますが、今回選択したのは人工靭帯(メッシュ状のもの)に加えて本人の半腱様筋腱を移植して靭帯再建を行う術法でした。膝内側部より、前述の腱を取り出し、次に人工靭帯と一緒に何重にも束ねた移植腱を生着させる方法です。動きの柔軟性と耐久性を保持できるよう配慮しました。
初診翌月に手術。術後、1週目より、CPM(写真左下)にて膝の可動域訓練を開始し、6週目の段階で伸展0度、屈曲135度まで回復し、歩行も支障なくなりました。ご本人は山登りがしたいと日々リハビリに励んでおられましたね。
今回のケースは、とにかく早く専門医に診てもらう事がいかに大切か、我慢し過ぎることのマイナスを改めて認識させられるものでした。
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